要点
10月4日の財政制度等審議会財政制度分科会で、ふるさと納税の一般財源化検討が提案された。
現在ふるさと納税は寄付金扱いで、全額が地方自治体の収入になる(1億円収入があれば、1億円が地方自治体の取り分。その一部が返礼品の財源)。
一方、一般財源である住民税などの地方税収は、仮に1億円税収が増えた場合、地方交付税交付金が7500万円減額されて、実質的な市町村等の増収は25%分の2500万円となる(75%が基準財政収入額に算入される。東京都等の不交付団体を除く)。
地方自治体がふるさと納税を重視するのはこの点も大きな要素。
地方税は一般財源なので、ふるさと納税で住民税収が減る地方自治体(主に都市部)では、減収額の75%が地方交付税交付金で補填されている(不交付団体を除く)。
これにより、ふるさと納税額が増えれば増えるほど国の負担が増えるという制度になっている。
そこで、将来的には、ふるさと納税収入を一般財源として扱うことも検討すべきでないか、という財務省の提案。
地方財政計画における財源不足は、令和3年度に3.4兆円生じて以降、好調な国税収入、地方税収等の見込みを背景に令和4年度、令和5年度とも発生していない。
令和5年度の地方財政計画92兆円に対してふるさと納税寄付額は1%強の約1兆円に過ぎない。仮に1兆円の地方税減収に対する交付税措置分がすべて財源不足になったとしても7,500億円。国の負担ではあるが、制度を大幅に変える必要があるほどの大きな金額だろうか。
ふるさと納税が一般財源となって、基準財政収入額に算入されれば、(3)の手取り25%ルールによって、地方自治体の実質的な歳入が激減するのではないか。返礼品も成り立たなくなるのではないか。
基準財政収入額は、地方公共団体の財政力を合理的に測定するために算定されるという地方交付税法の趣旨を踏まえれば、ふるさと納税寄付金を基準財政収入額に算入することは困難ではないか。
ふるさと納税寄付金を基準財政収入額に算入しない(できない)場合、ふるさと納税により減収となった自治体に対する補填が減る、または補填のうち国の負担分を減らす=地方の負担分を増やす、という方向になるのだろうか。
金額のボリュームを考えると、ふるさと納税に大幅な変更を生じさせるほどの変更を加える合理性は低いのではないか。
地方交付税とふるさと納税概説
地方交付税交付金の計算方法
全国の地方公共団体の多くは、国税としていったん国が預かった税収の一部を地方交付税交付金をとして受け取って運営しています。地方交付税は、地方公共団体間の財源の不均衡を調整してどの地域に住む国民にも一定行^サービスを提供するためのものです。
税収増えても手取り25%
そして、制度上、町の税収が増えたとしても実際に町の手取りが増えるのは25%分に過ぎません。これは、同時に税収が減ったときにも実質的な収入減が25%に抑えられるということでもありますので、一種のスタビライザー(安定確保)になっているとも言えます。総務省は「景気変動にかかわらず、地方団体が標準的な水準の行政を行うために必要な財源を保障」(「地方交付税制度の概要」2023年1月総務省自治財政局交付税課長作成資料/一般社団法人地方自治研究機構)と説明しています。
ふるさと納税は手取り100%
一方ふるさと納税は町に対する寄付金という扱いです。このため、地方交付税交付金の計算には影響がなく、手取りは100%です。いわゆる返礼品は、この町の手取り分を活用しています。
ふるさと納税が基準財政収入額に算入されることはありえるのか?
基準財政収入額への算入状況(市町村の場合)
一般財源や目的財源のすべてが基準財政収入額に算入されているわけではありません。例えば、法定外普通税(代表的なものとして、核燃料税など)は基準財政収入額に算入されていません。
| | 算入対象 | 算入対象外 |
一般財源 | 普通税 | (法定普通税の全て) 法定外普通税、市町村民税、固定資産税、軽自動車税、たばこ税(交付金除く)、鉱産税 | 法定外普通税 |
| 税交付金 | 分離課税所得割交付金(指定都市のみ)、利子割交付金、配当割交付金、株式等譲渡所得割交 付金、法人事業税交付金、地方消費税交付金、ゴルフ場利用税交付金、軽油引取税交付金(指 定都市のみ)、環境性能割交付金 | |
| 地方譲与税 | 地方揮発油譲与税、特別とん譲与税、石油ガス譲与税(指定都市のみ)、自動車重量譲与税 | |
| その他 | 市町村交付金、地方特例交付金 | |
目的財源 | 目的税 | 事業所税 | 入湯税、都市計画税、水利地益税等、法定外目的税 |
| 地方譲与税等 | 航空機燃料譲与税、森林環境譲与税、交通安全対策特別交付金 | |
法の趣旨からは算入しにくいのでは
基準財政収入額を定義しているのは、地方交付税法第2条第4項と同法第14条です。このうち第2条には以下の通り、基準財政収入額は「各地方公共団体の財政力を合理的に測定するため」に算定するとされています。
地方交付税法第2条第4項
基準財政収入額 各地方団体の財政力を合理的に測定するために、当該地方団体について第十四条の規定により算定した額をいう。
ふるさと納税制度で急増した寄付金が地方公共団体の財政力を合理的に測定する数字であるか、と言うと疑問があります。こう考えれば、地方交付税法の趣旨から、寄付金収入を一般財源化したとしても基準財政収入額には算入しない、という結論にも合理性がありそうです。
財務省の目指していることは?
10月4日の財政制度分科会資料のうち、ふるさと納税関係をご紹介します。
財務省の主張のポイント
地方税は一般財源なので、ふるさと納税で住民税収が減る地方自治体(主に都市部)では、減収額の75%が地方交付税交付金で補填されている(不交付団体を除く)。
補填に必要な財源が不足する場合は、国と地方が折半している(国は一般会計で、地方は臨時財政対策債で)。
この制度では、ふるさと納税寄付額が増えれば増えるほど国の負担が増えることになる。
地方財政におけるふるさと納税の計上のあり方を是正する必要があるのではないか。
将来的にはふるさと納税収入を一般財源として扱うことも検討すべきではないか。
私見
地方財政計画における財源不足は、令和3年度に3.4兆円生じて以降、好調な国税収入、地方税収等の見込みを背景に令和4年度、令和5年度とも発生していない。
令和5年度の地方財政計画92兆円に対してふるさと納税寄付額は1%強の約1兆円に過ぎない。仮に1兆円の地方税減収に対する交付税措置分がすべて財源不足になったとしても7,500億円。国の負担ではあるが、制度を大幅に変える必要があるほどの大きな金額だろうか。
10月4日財政制度分科会議事要旨
ふるさと納税については、返礼品の内容や事務経費について順次適正化を確保する措置が講じられてきており、地域社会活性化等への効果があるとの評価もある。そうした制度見直しも含め、今後も適正な制度運用を図っていくべき。(財務省WEBサイト)
参考資料
「ふるさと納税是正を提案、国費で補塡増を警戒 財制審」(日経新聞報道2023年10月4日)
「地方交付税制度の概要」2023年1月総務省自治財政局交付税課長作成資料/一般社団法人地方自治研究機構
「令和5年度 地方財政対策について」(財務省主計局主計官/ファイナンス2023年5月号)
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